会社で恋しちゃダメですか?
第二章



灰色の狭い階段をふうふう言いながら、営業部のある三階まで上る。正直、本当に出社したくなかった。先週末の失態が頭をよぎる。自分の人生を顧みると、人に大きな迷惑をかけたことなどなかった。けれどこの間は……考えたくない。


三階にたどり着き、ほっと一息つく。マスクを取って、廊下を歩き出すと、突然「園子」と後ろから呼びかけられた。


振り向くと、ジャケットを脱いだ朋生が、階段の途中から声をかけてきていた。


「おはよう」
園子は気まずい気持ちで、小さく挨拶をする。


「おはよう。お前大丈夫だった?」
たったったと、軽快に階段を駆け上がると、園子の隣に並ぶ。それから顔を覗き込んだ。


「うん。ごめんね、ほんと」
園子はうつむいた。


「いいんだ、それは。俺こそ、アルコールが入ってるのに気づかなくて、悪かったな」
「朋生のせいじゃないよ。わたしがぼやっとしてるから」
「今度は最初に俺が味見してやるよ」
朋生はそう言うと、安心させるように笑う。


園子は、爆笑されるとか、怒られるとか、非難されるとか、とにかく最悪なシーンを思い描いていたので、肩の力が抜けた。思わず笑みがこぼれる。


二人で並んで廊下を歩く。


「それでさ」
朋生が言う。「園子、部長とつきあってるの?」


「は?」
意表をつかれる質問に、園子の足がぴたっと止まった。


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