キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~


でも今回は、ちょうどみんなの手がふさがっていて、自分で検査して、フレームもレンズも販売するしかなかったから、そうしただけ。


「なんでこんなの選んだんだよ。だいたいこれじゃ、径が足りるかどうかの前に、似合わないだろうが。それくらい見てわかるだろ?」


「お客様が、そうしたいって言うから」


とにかく視界を確保するために、大きなフレームが良いと言われ、度数を強くしろと言われ、ガラスレンズ以外は嫌だと言われたから、そのようにしたまで。別に私がすすめたわけじゃない。


「はあ……」


矢崎店長は盛大にため息をつく。


「たしかにこだわりが強いお客さんは面倒臭いよ。言いなりになっちまうのもわかるが、結局作れねえんじゃ意味ないだろ」

「はい」


いくらかクールダウンした店長の口調に、ホッとする。


「こっちのお客さんも。とにかく安いものをって言われてたのは俺も聞いてたよ。けど、この強度近視で、4800円セットの標準レンズじゃ、厚いわ端っこは歪んで見えるで、使いにくいぞ」


矢崎店長は、他のお客様のデータカードとフレームを取り出す。

それも私が接客したお客様。たしか、中学生とケチなお母さんだった。


「それは説明しました」


「そうじゃなくて。加算して良いレンズにすれば薄くて軽くなるし、見え方も良くなるってのは説明したのか?」


矢崎店長とのやりとりが、多少めんどくさくなってくる。


説明したって、予算のない人が買ってくれるわけない。

無駄なことは体力と精神力の無駄でしょう?


……もちろん、そうは口にはださないけれども。

< 16 / 229 >

この作品をシェア

pagetop