キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~


「地区異動ですか?」


思わず聞き返した。


うちの会社は、メガネ店やコンタクト店を全国展開している。

採算の取れない店舗を閉店するのも、新しい商業施設に新店を開店するのもよくある話。

だいたい1地区5店舗くらいでエリア分けされていて、私の住むアパートは隣のエリアに近いと言えば近い。

けれど、入社してからずっとエリア内をくるくる回っていた私にとって、その外は未知の領域だった。


店舗間の人事異動は頻繁にあって、珍しいことじゃない。

今ではどこの店にも、一緒に働いたことのある人が一人はいる。

そのほとんどが30代~40代のおじさんで、『椎名初芽(はつめ)』という氏名の私を、『はっちゃん』と呼び、可愛がってくれていた。


閉店後の人事はまだ決まっていなかったけれど、どこか地区内の他の店に行かせてもらえるものだと思い込んでいた。

それがまさか、地区外異動なんて……。


呆然とする私に、地区長はあっさりと言い放つ。


「そ。八幡店ね。急に女の子がひとり辞めちゃったんだ。頼むよ」


そんなあ。今まで地区のために尽くして……って、そんなに一生けんめいやってこなかったけど。


私はもともと良いと言われている愛想を武器に、適当に商品を売っているだけだった。

難しい仕事は、全部オジサンたちがやってくれた。


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