幸せそうな顔をみせて【完】
 掠っただけのキスなのにどうしてこんなに唇から熱を感じるのだろうか?


 触れただけのキスなのに初めて恋をしたかのように胸が早鐘を打つ。お酒を飲んでいるというのだけでは理由にならないくらいに顔が熱くなっている。



 ゆっくりと目を開けると、そこには副島新の綺麗な顔があり、浮かぶ甘い表情にまた飲まれそうになる。こんなに至近距離で見たのは初めてだった。


「俺のものってことでいいの?」


 まさか微かに触れるだけだったとはいえ、キスをした後にそんなことを聞かれると思わなかった。優しく色香を纏った声が響く。


「葵」


 今の状況を見れば副島新の言葉の意味も分かる。私も副島新もさっきまで居酒屋でお酒を飲んでいて、酔ってないとは言い切れない。そんな状態でのキスだから副島新は聞いてきたのだろう。何時もは自信満々なのに今日に限ってどうしたのだろう。


 雰囲気に流されただけだとは思われたくなかったから私が頷くと、さっきよりも少しだけ大目に口角が上がる。一般の人にも笑っていると確認される程度に笑っているのを見ると私も嬉しくなる。笑っている顔を見るだけでこんなにも幸せなものだろうか?


「じゃ、俺のマンションにお持ち帰りってことでいいの?」


「え…あの。その。今日これから?」


「そうじゃないと言わないだろ。やっと葵が俺のものになったんだから思う存分堪能したい」


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