幸せそうな顔をみせて【完】
 副島新の前に行くと、私の手に持たれている袋に視線を移したけど、何も表情を変えない。少し待たせたけど怒っている風でもない。ただ淡々と言葉を紡ぐ。


「好きなのあったのか?」


「うん。気に入ったのがあったから。…あ、新は何も買わないでいいの?」

「いや、買いたいものはある」


 そんな言葉と共に立ち上がると副島新は自然に私の手にある紙袋に手を伸ばし、私の買ったいくつかの袋はあっという間に副島新の右手に持たれていた。そんなに重たいものは買ってないけど、それでも気になる。別に重くないし自分で持っても大丈夫なくらいのものしか買ってない。


「自分で持つよ」


「女に持たせるのは好きじゃない」

 
 副島新は会社では男も女もないという持論を持っている人だから、いつも同じように会社では荷物も一緒に持っていた。それなのに…今日は……調子が狂う。いつも通りにしてくれないと私が変に気を使ってしまう。


「あ、ありがと」


「ああ」


 歩き出した副島新は自然に紙袋を持った反対の手で私の手を握るとエスカレーターに乗り込んで上の階に向かう。そして、副島新が足を止めた先は…私の予想外の場所だった。まさか、ここが副島新が来たかった場所なのだろうか?


 たくさんのテナントの中でも一際目立つ高級感を漂わせる外観で、他の店とは一線を画している。そんなテナントの中に副島新は私の手を掴んだまま入って行こうとする。

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