“毒”から始まる恋もある


「わかったわよ。じゃあそれはいいから。アンタは帰るための努力をしなさい。私は送らないわよ」

「一人で帰れます」


まだ言うか。
全く、自分の能力、過信してるんじゃないのよ。

現実問題、酔って絡まれたって王子様なんて来てくれないのよ?

でも、キライにもなりきれないんだから、嫌になってしまう。


「ああもういい。面倒くさい。電話貸しなさい」


菫の手元から携帯をひったくり、着信履歴をチェックする。
一番上に“里中司”。

ほら、既に何度か電話入ってんじゃん。

かけ直してみると、二コールででた。
早っ。待ち構えてたんじゃないの。


『菫?』

「残念、刈谷です」

『なんで菫の携帯から……なんかあった?』

「あなたの彼女、面倒くさい感じに酔っ払ってるから回収しに来てください」

『ああ。……分かった。今どこ』


簡単に納得されるのもどうなんだ。
里中くんも、どうしてこんなに面倒くさい女が好きなんだか。

居場所を伝えて十分もしない内に、里中くんがやってくる。


「……早くない?」

「たまたま近くにいた」

「たまたまねぇ。忙しかったなんて嘘じゃないの?」


ちらりと菫を見ると気まずそうに頭を垂れる。
私とサシで話す機会を、実はうかがっていたのか? この子。


「とにかく任せるわ。私は面倒」


菫を里中くんに預け、二人の並んでる姿を見ないように私は歩き出す。

割りきってはいる。
菫と里中くんは付き合ってて、ラブラブで入り込む隙間がないことも理解している。

それでも、二人が並んでいる姿はあんまり見たくない。

< 27 / 177 >

この作品をシェア

pagetop