気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
 マンションの来客用駐車場に一晩駐めていた姉のコンパクトカーに乗った。

(今日は昨日より早く着けるかな)

 アクセルを踏んで自動車がマンションの敷地から出た直後、道路脇に停まっていた黒のSUVが静かに発進した。そのSUVがずっとワインレッドのコンパクトカーの後をつけていることに、凜香は気づいていなかった。


 制限速度をしっかり守って高速道路を走ったあと、国道を通って住宅街にある姉の家の前で停車した。パワーウィンドウを下げて窓から手を伸ばし、インターホンを押す。

「はーい」

 姉の声が応答した。

「お姉ちゃん、私。車、ありがとう。車庫に入れとくね」
「うん。成実と成樹はパパと一緒に公園に行ってるわ」
「わかった」

 凜香は窓から顔を出すと、少しずつバックして姉夫婦宅の駐車場に車を入れる。電車の駅から遠いので、康人もホワイトのワンボックスカーを所有しているため、それに当てないよう、慎重に慎重を重ねて三度切り返したあと、ようやく車庫入れに成功した。

「ふう」
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