気まぐれ猫系御曹司に振り回されて
 シューズボックスの扉を開けて、内側に貼られた鏡に全身を映して眺めてから、はたと気づいた。

(私ってば脅されて葛木くんとデートするのに、何ウキウキしてるんだろう……。デート自体、久しぶりだもんね……)

 最後に一対一のデートをしたのは大学三回生のとき。相手は友達に紹介してもらった同じ大学の学生だった。忘れなきゃいけない人を忘れたくて、頼んで紹介してもらったのだけど、彼が二度目のデートでキスより先の関係に進みたがった。けれど、凜香の方がどうしても踏み切れず拒んでしまい、「やっぱキミみたいにお高い感じの女の子って無理」と振られたのだ。

(お高い、か)

 凜香はため息をついた。同じ親から生まれたのに、姉よりも身長が十センチ近く高く育ったのも、切れ長の目できつい印象を抱かれるのも、凜香のせいではない。

 社会人になってからは、二年目に企画した児童向け科学誌の付録が話題になり、自社の雑誌としてもそのシリーズとしても初めて増刷された。雑誌の増刷は珍しいことで、その出来事で凜香は社内では一躍時の人になった。臨時ボーナスが出たことも企画が読者に受け入れられたことも嬉しかったが、それ以後、凜香には「ヒットして当たり前」の企画が求められるようになり、とくに年上の男性社員からは微妙に距離を置かれている。
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