画家の瞳は何をみる?



都内の丘は春になると桜が満開になり、丘が淡いピンクに色付く。

その丘にはひとつの小さなアトリエがあった。

アトリエは8畳ほどの広さで、絵の具やマーカーが収納されている棚と、真っ白なキャンバス、そして……一人の画家が住んでいた。

画家はキャンバスに咲き誇る桜を描く。

ひとつの色にとらわれず、『桜はピンクだ』という先入観をもたず、自分の思う桜を描く。

「……できた」

筆を置いたところで、そばの机の上に放置していた携帯電話が着信した。

携帯電話に手をのばし、通話ボタンを押す。

「なに?僕は忙しいんだけど」

『いいな。こっちは暇だよ。どうだ?久しぶり来ないか?』

「『忙しい』のが羨ましいなら、本当の暇人だね。」

『そういうこと言うな。悲しくなる』

「……まあいいや。すぐ行くよ」

画家は描いたばかりの絵を丁寧にしまうと、いつも使っている筆とクロッキー張をカバンに入れてアトリエを出た。

爽やかな風が画家の頬を撫でる。

「……いい風だ」

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