籠姫奇譚

夢の章


………ぽたり



………ぽたり



薄れゆく意識の中で、水の滴る音だけが響いていた。


「蝶子、知ってるかい?最高の絵具が何かを……」


踏み入れたことのなかった仕事部屋。

あの後、蝶子は遙に撲られて此処に連れて来られた。

遙の質問に、蝶子は思い切り首を横に振る。


「君も僕も持っているんだ………」


遙は傷ついた蝶子の頬を、冷たい指で優しく撫でた。


「血だよ。人間の血はとても綺麗な赤を出すんだ」


うっとりとした表情で、頬に触れる手に力をこめる。


「い、嫌ぁ!」


その手を払いのけると、無表情のまま遙は冷たく微笑んだ。




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