やわらかな檻
 私は筆を洗い終え、後片付けをしようと私室に戻ってきた所だった。


「『脱出』に『脱獄』に『断絶』……どういうことですか、これは」


 さながら、夫の浮気の証拠を突き出す妻。

 とっさに畳の上にばら撒かれた女性の名刺を想像してしまい、私はクスクスと笑った。

 何が面白くないのか、慧は私が笑えば笑うほど不機嫌になっていく。

 とりあえず手元の短冊を一枚――これは『解消』と書かれている、を手にとって慧に見せた。


「見て分からない?」
「この無意味な願い事の真意を訊いているのですが」

「無意味って……」
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