Devil's Night
 
 私は、両親と一緒にゴーストアパートへ向かいながら、何度も救急車を呼んでくれるよう訴えた。けれど『状況を確認してから』と繰り返す両親の慎重さがもどかしい。ところが  。


「ウソ  。いない  」


 そこには少年も灰色の猫も、それどころか、血痕すら残っていない。


「あの廃屋を怖いと思うあまりに、幻覚を見たんだろう。明日は学校休んでいいから、少しゆっくりしなさい」


 いつもは厳格な父が、ひどく優しく言った。


「ほんとに大ケガした男の子がいたんだってば! だぶだぶの白衣が血だらけになってて。お腹にビール瓶が  」


 訴えれば訴えるほど、両親の顔が深刻そうにくもる。


――これ以上言ったら、きっと頭が変になったと思われる。


 そう思った私は誰かに信じてもらうことをあきらめ、そこで見たことを、二度と人に言わなかった。


 それが私とカイとの出会い。
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