砂漠の王と拾われ花嫁
「お前、いつまで泣いている! 陛下の前で失礼だ!」

いつまでも涙の止まらない莉世に、アーメッドは苛立ちを抑えられずに怒鳴る。

その声に、莉世の身体がおびえたようにビクッとなる。不安げな瞳が長いまつ毛で隠れる。

ラシッドの心に、なにか抱いたことのない気持ちが芽生える。

「アーメッド! 出ていけ」
「ラシッドさま!」
「消化のよい食事を持ってくるように伝えろ」

アーメッドは頭を深く下げると、しぶしぶ出ていった。

「リセ、二ホンという国は知らない。いや、存在しない。お前は帰る場所を失ったんだ」
「そんなっ! 私は日本へ帰れないのっ!?」

伏せていた目が大きく見開く。愕然とした表情だ。

「お前はここで暮らすしかないだろう。帰る方法は、お前がここに来た方法しかない」
「どうやって来たのかわからない……目が覚めたらここにいて……」

ふいに莉世の手が額を押さえ、瞼をぎゅっと閉じる。

「今は思い悩まず、身体を治すことだけ考えろ。ここで面倒を見てやる」

ラシッドは、怯える小動物を安心させるような優しいまなざしを向けて、莉世の額に触れた。

額は倒れたときと同じくらい熱く感じられた。

「また熱が上がったようだ。侍医を呼べ」

ラシッドの手が莉世の額に触れた途端、気分が落ち着いたのだ。

(この人を……信頼してもいいの……? 見知らぬ世界で頼れるのはこの人しかいない……)

「横になりなさい。その熱では身体がつらいだろう」

ふらつく頭を休めたくて、莉世はラシッドの言う通りに横になる。眩暈に襲われ、目を閉じているうちに、莉世は眠りに落ちた。

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