砂漠の王と拾われ花嫁
女官が莉世のわきの下や足の方へ、氷の入った袋を置いていく。そして赤くなった肌に、ナツメヤシの油に蜂蜜と薬草を混ぜた香油が塗られる。

「貸せ」

ラシッドは香油を指先ですくうと、莉世のひび割れた唇に丁寧に塗り込んでいく。

ラシッドは莉世の瞳を思い出す。

(瞳は……確か……薄い茶色だったな)

ジャダハール国の住人はほぼ褐色の肌に黒い瞳だ。まれに薄い褐色の肌もいるが、莉世のような容姿はいない。

(しかも砂漠が危険だということは、小さい子供でも知っている。こんな無防備な格好で、なぜあんな所に? わが国の者ではないのに、娘は普通にジャダハール語を話していた)

ラシッドは不可解な出来事に眉根を寄せる。

女官が付きっ切りで娘の身体を冷やすが、熱はさらに上がり、ベッドの上の娘はうわごとを繰り返し言い始めた。

「ん……おかあ……さん……おとう……たす……けて……」

うなされてうわ言を繰り返す娘に、女官は戸惑う。

莉世の手が何かを求めて何度も上がるが、すぐに力なくベッドの上に落ちる。

このまま熱が上がり続ければ、この娘の命が危ない。

そばに控えていたカハールをラシッドは呼ぶ。

「すぐに熱を引かせろ。このままでは命が危険だ。あの薬を使うんだ」
「ラシッドさま、あの薬は副作用が強いのです。使って助かるとは限りません。この者の体力が……もう少し様子を見ても遅くはありません」

ラシッドがカハールに命じたものは、この国に伝わる秘薬。その液体を一口飲ませれば万病に効くと言われている。

だが、どんな副作用が起こらないとも限らない薬なのだ。

合わなければ記憶を失うか、それとも身体の自由が利かなくなるか、それは神のみぞ知る。

「もう一度、熱が引く薬を飲ませましょう」

カハールの言葉に、ラシッドは心配そうに娘を見てから頷いた。
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