粉雪
『…ちーちゃんが居れば、安心出来るんだよ。
毎日、喰うか喰われるかの中で生きてるから。
家に帰って、ちーちゃんが笑っててくれたら、それだけで良いんだよ。』


「―――ッ!」



何でこんなに、不安そうなんだろう。


何で隼人は、苦しそうなんだろう。


あたしは、どこにも行かないのに…。



「…わかった、考えとく。」


だけどこんな問題、今ココで、簡単に答えを出すことは出来なかった。


あたしが生活出来てきているのは、少なからず母親のおかげだから。


それに、まだ卒業だってしていない。



『てゆーか、腹減った!』


急に明るく言った隼人は、あたしから体を離して聞いてきた。



『ファミレスくらいしか開いてないな。
ちーちゃんの働いてるとこ行く?(笑)』


「…勘弁してよ…!」


『あははっ!嘘だよ!』



あたしの知っている隼人は、優しい顔をして笑う。


あたしの前だけでも良いから、ずっと変わらないでね?



そんな風に思っていたのに、いつの間に溝が生まれたんだろう…?


ただ、お互いを守りたかっただけなのに…。


あたし達は、“幸せに笑うカップル”なんかじゃなかった。


だからこそ、幸せな振りをして笑いあっていた。


愛し合ってて、それだけで良かったんだ。


他に、何もいらなかった。


隼人が居れば、他に何もいらなかったんだよ。



出会わなければ…


付き合わなければ…


別れてれば…


その全てに、後悔するんだ。


愛してるから、離れれば良かったんだ。


だけど愛し合ってるからこそ、離れられなかった。



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