粉雪
“こーゆー母親だ”


割り切っていたはずなのに、心臓が早くなる。


言葉なんて何一つ出てこなくて。


心臓の音が漏れ聞こえていないかだけが心配だった。



『“家出る”とか言って、どーせ男の所でしょ?
まぁ、あたしの娘だもんね。』


「―――ッ!」


何も言い返すことが出来ず、ただ唇を噛み締めた。



『…工藤さんとあたしの関係、知ってるでしょ?
実際、アンタが居たら、迷惑だったのよ!』



“工藤さん”は、母親の店のお客で、母親の“彼氏”でもある。



「…じゃあ、お母さんは工藤さんと暮らすの?」


震えた声がバレないように、平然を装い続けた。


だけど、手が震えて。


向けた背中に浴びせられる言葉が痛い。



『…いずれは、そうなるでしょうね。』


母親は、こちらに向けて煙を吐き出し、苛立ちながら煙草を消した。


まるで、あたしごと消してしまいたいようで。



「…そう。
お幸せに…。」


それだけ言って、部屋に戻った。


強がっていても、体中から血の気が引くのが分かる。


少しして、母親が家を出る音が聞こえた。


行く場所は多分、“工藤さん”の所。


力が抜けて、抑え切れなくなったものが込み上げてきそうで。


怖くて怖くて、仕方がなかった。


あたしは、どうなってるの?


これから、どうなるの…?


あたしが居るから悪くて、あたしはいらない人間で。


そんな風に、言われているのかと思った。


いや、実際そうなんだろう。




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