花の魔女
しかし、ドニはすぐに気づいた。
この女性は、ドロシーだと。
いくら髪をブロンドから黒髪に変えようとも、勝ち誇った笑みから優しげな微笑みにしようとも、その体から溢れる魔力は明らかにドロシーのものであった。
けれども、度重なる呪いで疲れ果てたラディアンには、それを見抜くことができなかった。
虚ろな目でドロシーを見つめ、ぼんやりと呟いた。
「……ナーベル」
ドニは目を見張った。
ドロシーは一瞬いつもの勝ち誇った笑みを浮かべたが、すぐにもとに戻し、嬉しそうに頷いた。
「そうよ、ナーベルよ。会いたかったわ、ラディアン!」
そう言ってゆっくりとこちらに近づいてきて、ドニは焦ってラディアンの肩を強く揺すった。
「だめです、ラディアン様!あれはドロシーです!騙されてはいけません!」
ドニは必死で叫んだが、ラディアンの耳にはとうとう届かなかった。
ぼんやりとした目のまま、近づいてくるドロシーに手を伸ばし―――
「ラディアン様!!」
ラディアンはドロシーの手を、取ってしまった。
ドニは愕然とした。
ラディアンはドロシーの策略に嵌り、呪いに堕ちてしまったのだ。
もう自分には、どうやってもラディアンを助けることができない……
ドロシーがラディアンを連れ去っていくのを、黙って見ていることしかできなかった。