流華の楔





将軍直属の隠密役を勤める、御庭番。


今から二年程前、その御庭番にひときわ美麗な青年が配属された。




容姿だけではない。
武術においてその者の右に出る者はほとんどおらず、高い学識は古参の幕臣をも唸らせた。




名を、新崎和早。
(しんざき かずさ)

彼は正真正銘“女性”で、言わずもがな“才色兼備の青年”の正体だった。



御庭番を任されるのは代々同じ家系と決められていて、和早の母方の実家がそうだった。



彼女には兄が一人いたが、早い段階から妹の方が有力視されていたという。




何故かといえば、兄が天然で秘密主義が絶対条件の仕事に向かないというのが第一。


第二に、父方の家系の厄介な事情による。




いずれにしろ、死の危険が付き纏うこの任を自分以外の身内に課されなかっただけでも和早は安堵していた。



そして彼女は現在、若くして御庭番を引退し、会津藩に身を寄せている。






< 2 / 439 >

この作品をシェア

pagetop