流華の楔
島原の夜
夜、新選組幹部総出で訪れたのは『輪違屋』。
格式が高く、最も格の高い太夫や高位の芸妓を置いていた。
芹沢がどこぞから大量の資金を得たらしく、その金で飲むのだという。
「俺は反対したんだが、芹沢さんがどうしてもと…」
既に飲み始めている幹部を横目で見、土方が申し訳なさそうに謝った。
「ふふっ。気にしませんよ。こういう所は慣れ……いえ、楽しみだったので」
「…そうか。いづれぇとは思うが勘弁してくれ」
「はい」
律儀だな、と思った。
今までの土方を見る限り、鬼の副長という異名が似合わないような気がした。
「(それとも、まだ本質を見てないだけか…)」
芸妓と戯れる永倉や原田を眺めながら考えに耽っていると。
甘い香りが鼻をかすめた。
きぬ擦れの音がした隣を見れば、酷く着飾った芸妓と目が合った。
「あんさん、えらい綺麗な顔してはりますな…」
※ここから標準語表記
高位の芸妓らしい、洗練された動きは見るものを魅力する。
残念ながら和早にとってはどうでもよかったが。
「いえ、私はそんな…」
「謙遜はよしてくださいな。あなた様のような綺麗なお侍とは初めてお会いしました」
彼女は形式的に和早に酒を勧めた。
身体は和早にぴたりと寄り添い、その気がある雰囲気を振り撒く。
「………」
嗚呼、どうしようかな。
和早は内心考えを巡らした。