駆け抜けた少女ー二幕ー【完】


土方の額に僅かに筋が浮かび、鋭い眼光を矢央へと向けた。


「私が脱走した時は、切腹にはならなかったッ! あの時みたいに、謹慎と…」

「てめぇが意見をするなッ!」


緊張感が部屋を包む。

土方の罵声が初めて矢央に向けられ、皆驚きに目を見開いた。


「お前と山南さんじゃあ立場が違う。 第一にこれは、俺達幹部が考えにゃならん要件だ。一隊士のてめぇの意見なんざどうだっていい」


冷たく言い放たれた矢央の瞳は潤み、しかし泣くまいと必死に堪えていた。


「で、でも……」

「意見は聞かねぇと、何度言わせりゃ分かる」


この場を今直ぐに逃げ出したいくらいの恐怖だった。

普段から怖い土方だったが、これが本当の怒りなのかと思い知らせる。

それほどに冷酷な瞳だった。



「お前はこれ以上この事に関与するな、出て行け」

「ッッ!!」


逃げ出したいと思った時には動かなかった足が、今度は素早く動いた。


走り去る矢央を土方は一切見ることもなく、いつもみたいに矢央を追う者もいなかった。

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