嘘婚―ウソコン―
陽平は勝手に背中を見せると、その場から去って行った。

追いかければ簡単なものの、それを追いかけることができない。

いや、できなかった。

どうして陽平を追いかけることができなかったのか、自分でもよくわからない。

「何なのよ…」

すっかり見えなくなった彼の背中に向かって、呟いた。

熱い風が肌をなでる。

千広は手すりにもたれかかると、息を吐いた。

「何で簡単に交わされちゃうのよ…」

周陽平、財閥の御曹司――彼は一体、どうして自分を選んだのだろうか?

この世に女はたくさんいる…けど、たくさんいるその中から彼は自分を選んだ。

「訳わかんない…」

そう呟いて、千広は空に視線を向けた。

半分の月は何も答えてくれなかった。
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