LOVELY☆ドロップ

いたたまれない気持ちになって、チラリと女の子から敷布団がある方へと目をそらすと、あたしが眠っていたそこには濡れたタオルが落ちてある。

それはきっとあたしの熱を冷ますためにおでこに乗っていたものだと思う。

――ああ、そうだ。

この男の人は初対面なのにもかかわらず、あたしを気遣って看病までしてくれた。


それなのに、後先考えずこの人を叩くなんて!!


そうやっていろいろ考えると、とてつもないくらいの罪悪感があたしを襲う。

当然、面と向かって男の人を見つめられるわけがない。

だけど、男の人が今、どれだけ怒っているのかが気になるのもたしかだ。

だからあたしは眼だけを動かし、男の人の表情を確認した。


そこで見た男の人の表情は、まさに『無』だった。

顔を真っ赤にしているわけでもなく、こめかみに青筋をたてているわけでもない。


ただ、茶色い目をあたしに向け、薄い唇を引き結んでいた。


無表情がどれだけ怒りを示しているのかは、慶介(ケイスケ)を知っているからよくわかる。

仮にもし、あたしがこの人に行った言動を慶介にすればどうなるだろう。


おそらく彼はとてつもなく怒り狂う。

なにせ、彼はとてもプライドが高い。

自分こそが人の上に立つべき人物だと考え、自分こそが絶対的な存在だと思い込んでいる節が日常を垣間見ただけでもよくわかるから……。


――ああ、マズい。

付き合っていた慶介でもそうなるのだ。初対面のこの人はさぞや怒っていることだろう。


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