彼と彼女と彼の事情


不思議だった。本当に。


あんなに酷いことをされたはずなのに……。


隼人の嫌なところは、何一つ浮かんでこなかった。


寧ろ、隼人の優しさだけが私の中で沸々と蘇った。


『嫌いになった』というのなら、諦めもつく。


でも……


『まだ愛してる』だなんて。

私はどう気持ちに整理をつけたらよいのだろう。


いくら考えても考えても、答えは見つからない。 


隼人―――…。


湯船にブクブク……と頭を沈め、数秒後、プシューッと水面から顔を押し上げた。


気持ちを断ち切るようにブルブルブルッ……と頭を振り、水気を切ると浴槽から立ち上がった。 



< 11 / 300 >

この作品をシェア

pagetop