解ける螺旋
昔私の身を襲ったあの事件が、健太郎の中ではトラウマになってるんだって事はわかってる。
だから文句は言わないけれど。
もうずっと昔から、こうやって時にはお父さんみたいになる幼なじみに、私は溜め息をついた。


「ほら、空気読んで。教授が困ってる」

「誰のせいだよ」

「……ははは。いつも思いますが、お二人は本当に仲がいいですねえ」


妙に穏やかな教授の一言に、


「良くないです!」


私と健太郎がほぼ同時に、教授に反論した時。
研究室の奥の方から、くぐもった笑い声が聞こえた。


「……自覚がないだけで、息はぴったりみたいだ」


反射的にその声にも反論しかけて、その前に健太郎に止められた。


「失礼しました。遅れた上に騒がしくて申し訳ありません。
大学院博士課程の研究員、結城健太郎です。
……新しく来られた助手の先生ですよね」


聞き覚えのない声に健太郎は途端に丁寧になって、教授の背後から近付いて来た彼に挨拶をした。


それにつられて頭を下げて、


「……初めまして。相沢奈月(あいざわなつき)です」


名乗った後で顔を上げると、教授の隣に立ったその人と目が合った。
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