主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
嵐が来ても炎天下の中でも、幽玄橋の前で微動だにしない2mを優に超える体格の赤鬼と青鬼の前に、ある日、1人の若い女が立っていた。

赤鬼と青鬼を見上げる顔は恐怖に歪んでいて、脚はがたがたと震えていて、2匹の足元にまだ生まれたばかりと思われる赤子を置くと、人間が住む平安町へと走って逃げて行った。


「…これ、食っていいのか?」


「まずは主さまに相談しなければ。まだお休みになっておられるはずだが…」


「ああ、暑い…暑い…」


――まだ真昼間のうちに、2匹の前に1人の妖がふらふらと歩きながら近寄ってきた。


妖怪は主に夜に活動する。

こうして人間が幽玄町で活動している中をふらつきながらも歩けるのは、妖力の高い妖だけだ。



「山姫様、良いところに」


「おや…それは何だい?」


「人間の女が置いていきました。食ってもよろしいので?」


赤ん坊を抱っこした赤鬼が赤ん坊ににやりと笑いかけると…

普通は怖がって泣くはずなのに、声を上げて笑った。


「おお、赤鬼の顔を見て笑うとは肝が据わっているな!次は俺だ!」


色が違うだけで同じ顔をしている青鬼が抱っこすると、またもやこの女の赤ん坊が笑って手を伸ばす。


「おお!可愛らしいな!」


山姫は赤茶の長い髪を払いながら2匹に近寄り、顔を覗き込んだ。


まだ目が開いたばかりで、顔立ちがくっきりとした可愛い顔をしていて、顔が綻ぶ。


「おやおや、可愛いねえ。幽玄町の住民になるつもりなのかい?主さまに食われてもいいのかい?」


「きゃきゃきゃっ」


――遠巻きに幽玄町に住む人間たちが妖たちを見つめる。


いつ食われてもおかしくない身。

だが逆を言えば、町に侵入しようとする地方の妖を追い払い、守ってくれる存在でもある。

だが怖くて話しかけられずに、青鬼に抱かれている赤ん坊を気にするように皆が見つめていた。


「じゃあ私が主さまのところへ連れて行ってやろう。その子を預かるよ」


「もうちょっと抱きたかったなあ」


青鬼が名残惜しそうに赤ん坊を山姫に手渡し、またふらつきながら歩き出す。


「ああ、暑い、暑い…」
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