主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
“食う”というのは…文字通りの意味ではないのだろう。

遠回しではあるが主さまからそう言われて俯くと、手を握られた。


「どうした」


「だって…主さまってやっぱり助平」


「嫁になるとはそういうことだろうが。子だって…」


「わ、わ、わかったからっ。それ以上は言わないで、恥ずかしいっ」


つまり子供ができるようなこと――

息吹があまりにも恥ずかしがるのでそれが主さまにも伝染してしまい、がりがりと髪をかき上げると、床をぽんぽんと叩いた。


「?主さま?」


「抱き枕になれ」


「え?え?きゃっ」


ぐいっと手を引かれて床に倒れ込むと、主さまも横になり、腕枕をされてさらに顔が真っ赤。


「ぬ、主さま…秘密が増えちゃう…」


「増えたっていいだろう?俺たちは夫婦になる。これくらい…」


「…ねえ主さま、夫婦になっても…その…他の女の人を食べるの?お腹が空いたら…食べるんでしょ?」


真一文字に結ばれていた主さまの唇がゆっくりと開き、頭を引き寄せられると耳元でぼそりと囁いた。


「もう他の女は食わないし、抱かない。腹が減ったら…お前を食う」


「ほんと?それは嬉しいけど…ゃ、主さまっ」


帯に手をかけられて身が竦むとすぐに手が止まり、主さまが寝返りを打って背を向けた。

拒絶したから怒ったのかと思い、やや焦りながら主さまの肩に触れようとすると…


主さまの耳は、真っ赤になっていた。


「…主さま…?」


「……あとどの位待てばいいんだ?…自制できそうにない」


ぼそりと呟いた主さまの告白を聴いた息吹も真っ赤になってしまい、主さまの背中に抱き着くと、びくりと身体が痙攣した。


「父様に内緒にできるなら…私…」


「…駄目だ、あいつの鼻は特別だからすぐにばれる。それより息吹、俺に触れるな。でないと…襲うぞ」


「えっ、う、うんっ」


慌てて離れると、腕枕だけはしてもらったまま見つめ合い、秘密の共有を笑い合う。


「主さまの腕…固いね」


「…お前はがりがりすぎる。もうちょっと太れ」


と言いつつも、息吹のやわらかさに頭がおかしくなりそうになっていた。
< 369 / 574 >

この作品をシェア

pagetop