主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
全てが終わった時はもう深夜で、絶えず稲光と雷鳴が轟いていた暗雲は徐々に消えて行き、星空が見えた。


もぬけの殻になっていた主さまの屋敷には歓声を上げながら百鬼たちが戻ってきたが…やはり1番最初に屋敷に到着したのは、晴明だった。


「晴明ー!大人げないぞこんにゃろう!」


「看病と言えば私だろう?それに私は息吹の父であり、十六夜の知己だ。そなたたちが部屋へ入ればいくら功績を上げていようとも瞬殺だぞ」


元々主さまと息吹の看病を誰にも任せるつもりがなかったので、一向に起きる気配のない2人を部屋に運び込んだ晴明は式神に氷水や薬などを持ってくるように命じると、床に寝かせてその傍らに座った。


…息吹には、鵜目姫と木花咲耶姫が宿っていた――

人として生きれるはずなどなかっただろう。

だが気になることも言っていた。


“妾を封じた”と木花咲耶姫が言っていたが…それは誰だろうか?


「…息吹…」


息吹の身体を調べると、重傷に見えた火傷は綺麗に消えており、胸を撫で下ろした晴明は次に主さまの身体を調べた。

あの腹に空いた大穴…いくら妖といえど死に至るものだったはず。

いや、現に恐らく主さまの魂はあの世に脚を踏み入れたはずだが、三途の川を渡らせなかったのは…木花咲耶姫だろう。

神の中でも最も尊き女神であり、最も美しい女神が生まれ変わったのが…息吹だ。


「十六夜よ…そなたは鬼族の長だが、息吹は神々の中でも最も美しき女神だぞ。古より続いた縁をようやく絶ち切ったと思ったら次はこれか。やれやれ…先が思いやられる」


ひとりごちた時、待ちわびていた気配を感じた晴明は息吹の頭を撫でて部屋から出ると、空を見上げた。


「晴明!主さまと息吹は!?」


「山姫と…雪女か」


相模たちから話を聴いて戻って来た山姫たちは主さまの部屋の入り口から中を覗き込み、ぴくりとも動かない2人を見て涙ぐんだ。


「無事なんだね…!?」


「…2人は無事だ。だが…無事ではなかった者も居る」


「え…?」


「雪女…少々話がある」


――雪女の真っ白な美貌に影が差した。

すでに何かの予兆を感じていたのか…、瞳からは氷の欠片がぽろぽろと零れてからからと音を立てて、散らばった。
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