優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃が着物を太股まで捲り上げて単身屋敷に戻ってきた。


「桃姫!?如何なされたのですか!?」


「幸村さん…っ」


幸村が直視しないように注意しながら桃の手を取り、クロから降ろしてやっている間に、騒ぎを聞きつけた謙信や政宗が部屋から顔を出し、首を傾げる。


「…戻ってきちゃった…」


――三成と共に出かけたからには、桃が一人で戻ってくるのはおかしい。


「桃姫、何やら様子がおかしいが…何かあったのか?」


そう優しく声をかけてきたのは…政宗だった。


――普段豪胆で豪快だが、そんな男から心配そうに声をかけられると、今までため込んでいたものが一気に溢れ出て、桃の瞳から涙が伝った。


「政宗さ…っ、私…」


――謙信は動かない。

ただ桃を見守り、障子に寄りかかって見つめているだけ。


「殿、とりあえず部屋へお招きしましょう。石の件は道中お話されますように」


「う、うむ」


一番信頼している有能な家臣からの助言に、人差し指で桃を拱き、優しく声をかけた。


「姫、とりあえず部屋へ入らぬか。俺でよければ話を聞くぞ」


「…うん」


三成が粗相をしでかしたおかげで舞い込んできたチャンスに内心ガッツポーズをしつつ、さらに小十郎はこそっと政宗に耳打ちをした。


「殿、優しく優しく、でございますよ」


「わ、わかっている!」


縁側を歩いてきた桃を部屋へ入れ、少しの距離を取って座り、改めて桃を見つめた。


…普段は見たことのないセーラー服を着ている姿をすでに見慣れていた政宗は、上物の着物を着て清楚そうに俯いている桃にどぎまぎしつつも、その姿を褒めた。


「その着物…よく似合っているぞ」


「…こんな着物…着てたくない!」


「!」


突然そう言い、立ち上がると帯を解き、脱ぎ始めた桃を呆然と見上げる。


ついには下着まで見えてしまったので、慌てて羽織を取ると桃に被せた。


「お、男の前で真昼間から脱ぐなど、女子がすることではないぞ!」


「着てたくないんだもん!」


――茶々からもらった着物。


一分一秒でも早く、脱ぎ捨ててしまいたかった。
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