優しい手①~戦国:石田三成~【完】
奥方でもなく女中でもない…


非常に見る目が変わった幸村の痛いまでの疑惑に染まった眼差しに…


普段一切言い訳をしない三成の口から、言い訳が途切れ途切れに紡がれた。


「1人で寝ろと言うのにもののけが怖いと言って離れんのだ。…桃、今夜は1人で…」


「やだ!本当に怖いのにどうしてわかってくれないの!?」


――三成が心底困った顔をしている。

…が、桃としても背に腹は代えられず、誰かと一瞬じゃないと絶対に眠れそうになかったので必死だ。


うーん、と幸村が唸ったので、ぐりんと首を幸村の方に向けて、妥協案を提示した。


「じゃあ幸村さん…一緒に寝てくれる?」


…みるみる顔の赤くなる幸村に、みるみる顔の青ざめる三成。


「そ、それは拙者と夜を共にということで…?」


じりじりと距離を縮めてくる幸村の手をがしっと掴むと、桃は力強く頷いた。


「うん、三成さんはヤだって言うし…朝まで一緒に寝て?」


――脳内でかなり美化された桃におねだりされると、純情な幸村はもじもじしながら俯いた。


「しかしその…心の準備が…」


「…桃はいつも通り我が寝所に来い」


先に出会った三成の方を信頼している桃は飛び上がるようにして立ち上がると、満面の笑顔で障子を開けて振り返った。


「ありがとう!お布団敷いてくるねっ」


…桃が去った後…


目に見えて肩を落とした幸村に向けて十文字の槍を膝に放った。


「あれが魅力的な女子に見えるのか?越後はよほど女子の少ない地であろうな」


「いやいや…桃殿は魅力的です。やはり拙者が代わりに…」


「結構だ。桃と何か間違いがあっては困る」


「はて、何故困るのですか?三成殿には何の関係もないのでしょう?」


――ぐっとなったが、その返答を拒否するようにして立ち上がると、肩越しに僅かに振り返る。


「道中疲れただろう、今夜は早く休まれるように」


勢いよく閉まった障子…残された幸村は、三成を未だ疑っていた。


「毎夜共に眠っておられるのか?三成殿は…やはり侮れぬお方だな」


名残惜しそうに桃から握られた右手を見つめてため息をついた。
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