優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃の朝はかなり早いが…三成はもっと早い。

いつも三成より早く起きようと必死になるのだが、まだ勝ったことがない。


「ふわああ…今日も三成さん…早いなあ…」


障子を開けて大きく伸びをしていると、庭先に降りて十文字の槍で朝稽古をしていた幸村が桃の姿を見止めて駆け寄って来た。


「お早いですね!…ってももも、桃殿…!あの…その…」


急に口ごもった幸村が必死になって何かを伝えようとしているのだが、桃は意図が読めないままきょとんとしていた。


「へ?」


「あの…その…その…む、胸元が…」


自分の身体を見下ろすと…起き立てだったこともあってか、帯は緩み、胸元が大きく開いて下着を露出させている。


「わわっ!は、恥ずかしいなあ、ごめんね幸村さん!」


「は…いや、結構なお手前で…」


よくわからないことを言いながら顔を真っ赤にさせて動揺する幸村の前で帯を強く結び直すと、桃は辺りをきょろっと見回した。


「幸村さん、三成さん見なかった?起きると居なくって。あの人朝早いの」


親しげな匂いをかぎ取った幸村は、やはり桃のことを好いていたので三成との関係を問い質しにかかった。


「三成殿とはどこで出会われたのですか?女中でもなければ奥方でもないとお聞きしたのですが…」


「あ、えーとね…」


――普通に答えそうになって、そして桃は三成にきつく申しつけられたことを思い出す。


『違う時代から来たことを誰にも言ってはいけない』


間一髪でその約束を思い出した桃はしどろもどろになりながら言い訳をしてみた。


「えっとね…捨てられてたところを…拾ってくれたんだー」


「…はっ?いや、その…桃殿が捨てられていた…?なんとおかわいそうな…!」


根が正直にできている幸村はその桃の嘘を鵜呑みにすると、目尻に涙を浮かべている。

桃は限りない罪悪感に苛まれながらも、それでも三成との約束を守った。


「えへ、命の恩人なの。三成さんいい人でしょ?幸村さんも仲良くしてね、上杉の人たちともね!」


「はっ!拙者にお任せ下さい!」


使命感を燃え上がらせながら答えた幸村に、桃は満面の笑みを浮かべた。
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