四竜帝の大陸【青の大陸編】
りこは我を抱きしめたまま、再び寝入った。

我は反省した。

初めてだな、反省したのは。
りこは自分の意思に反してこの世界に‘落とされた‘のだ。
知らない場所・知らない言葉・知らない人間……さぞ恐かっただろう。
だから目覚め、そこが寝入った場所と違うと認識したときの恐怖はいかほどだったであろうか?

恐いという感情は今まではよく理解してなかったが、先ほど理解した。
目覚めたりこは様子がおかしく、最初は我の念話も届かなかった。
この我の念話が届かぬ程の狂気がりこを捕らえていた。
このままではりこが狂ってしまう……壊れてしまう!
そう感じ、恐怖した。
我に対して多くの者が感じているらしい‘恐怖‘とは若干、異なる気がするが。
我はりこにしか興味が無いからその他の者との差異は放置することにしよう。

「りこ、りこ。我の‘つがい‘!我に名を与えた唯一の者よ!」

丸めていた手を開きそっと……そっと伸ばす。
硬い鱗が鋭い爪が、りこの弱くて柔らかな肌を傷つけぬように。
そっと、そっと……。
我は竜。
人間とは比較にならぬ程の力がある。

「駄目だ。りこの涙をぬぐってやりたいのに、加減が分からぬ。自信が無い」

りこの口に、我は竜珠をこの手で与えた。
あの時だってそっとした……つもりだったのに。

「あの時、りこは苦しそうだったしな。つまり、あの時以上の‘そっと‘が我には必要なのだ」

頬に伸ばした指を下げ、拳をぎゅうっと握りなおした。
情けない……いや、悲しいのか?
これもまた初めての感情だ。
さすがの我も初めて尽くしで少々疲れたような?
疲れたことが無かったので、これは推測だが。
よし、当面の目標が決まったな。

ふむ。
りこを傷つけずに触れることが出来るようになること!
これしかないな。
しばらくはりこの方から触れてもらうことにしてだな。

「待っててくれ、りこ。我の“つがい”よ! 我は必ずりこをこの手でっ……!」

我はこの時は想像すらしなかった。
りこに自分から触ることへの長く、険しい道程を。


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