【完】 After Love~恋のおとしまえ~


サトシは、たまに同僚の医師たちとの食事の席に私を誘ってくれた。

初めて誘われた時はとても緊張したけれど、それでもその誘いは、とても嬉しいものだった。

同僚に紹介してくれる、というのは、真剣に付き合っている恋人だという証のような気がしたから。


その日も、サトシと、谷本浩二(タニモト・コウジ)先生と私の三人で夕食に行くことになっていた。

谷本先生はサトシの先輩医師であり、東京にほとんど知り合いがいないサトシにとって、兄貴分のような存在になっている人だ。

明るい人柄の谷本先生は、きっと職場のムードメーカーのような存在なのだろうと容易に想像ができる。

「おっ、友里ちゃん、今日も可愛いね! そのピンクのカットソー、友里ちゃんの雰囲気にすごく似合ってる」

指定されたイタリアンレストランで私が待っていると、そんなことを言いながら谷本先生が現れた。

谷本先生は、いつもそんな風にお世辞を言ってくれるのだ。

「ありがとうございます。谷本先生は、いつもリップサービスしてくれて嬉しいなぁ。サトシは全然褒めたりしてくれないから」

「そうなんだ?」と笑いながら、谷本先生が席につく。

谷本先生が一人で来たので、サトシはどうしたのかと尋ねると

「まだ仕事が終わらないみたいでね。先に食べていてくれって言われたから、とりあえず二人で食事開始してもいいかな? 友里ちゃんの待ち人じゃなくて申し訳ないけど」

谷本先生はおどけてそう答えた。

「もちろん、光栄です」
< 49 / 595 >

この作品をシェア

pagetop