今夜、俺のトナリで眠りなよ
 馬鹿みたい。

 惨めだわ。

「ねえ。私はパーティ会場に戻るべき?」

「俺が知るかよ」

「だよね。ごめん」

 私は必死で堪えている涙を一滴だけ、ポロリと頬に流すと、唇を噛み締めた。

 何も知らなかった30分前に戻りたい。そして酔いを冷まそうと廊下に出ようとしている自分に、「出ちゃ駄目よ」って伝えてあげたい。

 そしたら何も知らずに、きっと今頃は挨拶回りをしていたはず。

 私は深呼吸をすると、ベッドから足を出した。

 ここで丸まっててはいけない。夫に裏切られたって知っても、私は妻としての役目を果たさなくちゃ。

 私はハイヒールを履こうとすると、バシっと一樹君に手首を掴まれた。

「行かなくていいんじゃねえの」

「え?」

 私は振り返ると、一樹君の顔を見つめた。

「今夜、俺のトナリで眠りなよ――」


< 10 / 135 >

この作品をシェア

pagetop