今夜、俺のトナリで眠りなよ
「俺は良い弟だろ? それを黙って見ていたんだから。欲を出さずに、静かに兄貴たちの自由にさせてたんだ」

「なら、なぜ今頃……」

「わかってるだろ。桜子さんを自由にしてやってよ。桜子さんのお父さんの会社が欲しいんだろ? わかってるさ。だけど、離婚しないならこの会社は俺が貰う。んで、桜子のお父さんの会社も買収する。それで兄貴は一文無しだ」

「なに?」

「今なら選べる。俺に全てを奪われるか。それともこの会社だけは、自分のモノにできるか。さあ、どっちを選ぶ?」

 俺は片方の口を持ち上げて、ニヤリと笑う。

 どっちを選ぶかなんて、決まってるさ。

 兄貴は、『ちっ』とらしくない舌打ちをして、離婚届に手を伸ばした。

「これを書けばいいんだね。それで僕はこの会社の社長でいられる。一樹が、遺言書にのこされた言葉を一切、オモテに出さない……そういうことだね」

 俺はテーブルから足をおろすと、「まあね」と親父の遺言書のコピーをビリっと二つに破った。

「俺は、親父の残した会社に興味なんてないから」

 兄貴が、離婚届を書き終えるのを待って、用紙を受け取った。

 これで、桜子は自由だ。

 俺は細々とした決めごとを、兄貴に一筆書かせてから、社長室を出た。

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