今夜、俺のトナリで眠りなよ
 人はいろんな場面において、危機に陥ると、己とは思えない突飛な行動に出たりするのはよくあることだ。

 まさに今が、その状況かもしれない。

 ちゅ、ちゅ……と唇を吸われる音で、私はハッと我に返った。

 私は目の前にいる男の胸を押した。

「ちょ、ちょっと止めて。こんなことしちゃ駄目」

 ホテルの一室で、私は夫の弟である増岡一樹(ますおか かずき)君の腕の中にいた。

 恋人同士のような甘いキスで、私の頭がクラクラしてくる。

 クラクラするのは、キスのせいじゃない。夕方から飲み続けているお酒のせい……なんて心の中で己に言い訳してみる。

 ワンピースドレスの肩紐に指をかけて、一樹君がニヤリと口を緩めた。

「本当にヤメテ欲しい?」

 一樹君が鎖骨にキスを落とした。

「こんなの間違ってる」

 私は肩紐にある一樹君の手を叩くと、ワンピースドレスをきちんと整えた。

「『間違ってる』? 本当に?」

 ぐいっと一樹君が私の腰に手を回すと、引き寄せてきた。
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