今夜、俺のトナリで眠りなよ
「いいの。平気」

「平気じゃないわよ」

「平気。歩いて帰る」

「なんてことを言ってるの? ここから何時間かかると思っているのよ」

「みんな、私の努力不足が夫婦不仲のせいだって言う! 違うのに。私の気持ち、誰も理解してくれない。お父さんも、お母さんも……私の気持ちをわかってくれない。こんな家、一秒たりとも居たくない。だから帰るの」

 私はヒールに足を入れると、実家を飛び出した。

 飛び出して気付く。

 鞄は持ったけど、コートを着てくるのを忘れたのを。

 だからって、戻るなんてしたくない。歩いて帰る。絶対、一人で帰るんだ。
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