愛を待つ桜
そんな思いを抱えて、夏海と再会した。
そして、憎しみを新たにしたはずが……。

3年前は知らなかった夏海のワークスタイルを目にすることで、聡の疑問は膨らむ一方だ。
これまで雇った秘書で、夏海ほどのレベルを満たしたものがいただろうか。司法書士の片手間でこれである。

夏海が一条物産を辞めた後、匡は随分仕事の愚痴をこぼしていた。

当時はそれを、愛人がいなくなったことの不満であろうと、更なる怒りを感じたものだったが。

しかしわからない。これほど優秀な彼女がなぜ、体で男を選ぶような真似をしたのか。

そして、今日のキスだ。


彼女は確かに応えてくれた。
それは、3年前と同じように彼の心と体に火を点けた。
夏海の唇を味わい、身体に触れ、その香りを嗅ぎ、仕事中であるにも関わらず、聡は危うく反応しそうになったのだ。


「――そんな馬鹿な」


両手を組み、デスクに肘を突くと拳を額に押し付けた。

夏海を忘れるため、振り切るため、そして何より、女に騙されてなどいない、と自分自身を偽るために、聡は智香との結婚を決める。

思えば、愚行の極みであった。

2度目の失敗で、聡は知人や親戚中から嘲笑の的となり、両親にも恥を掻かせ、彼は再び実家に戻れなくなってしまったのだ。

以降、女嫌いに拍車が掛かっている。
クライアント相手でも愛想笑いすらしなくなった。
毎日毎日ひたすら馬車馬のように働き、遊ぶこともせず、休暇も取らず、如月の目には病的に映っている。仕事中毒症――いや仕事依存症なのかも知れない。

あれ以降、両親から縁談を勧められることもなくなった。

それはそれでありがたかったが……38とはいえ男は男だ。


複雑な思いでドアを見つめる。その向こうには夏海がいる。

やるせない感情に心を揺さぶられ、軽く目を閉じる聡だった。




―第2章に続く―


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