愛を待つ桜
「君は? 君自身は肩身の狭い思いをすることはないのか」

「産気づいたときも、自分でタクシーを呼んで病院に行ったわ。産むときも、産まれてからも、誰ひとりお見舞いには来てくれなかった」

「自業自得だろう。いい加減な生き方をして、相手の男に捨てられるような真似をするからだ」


またこれだ。

夏海は大きくため息を吐くと、


「もういいわ! あなたの言う通りよ。あんな男を信じた私がバカだったの!」


そんな夏海のヤケクソの言葉に、聡は何を思ったのか、


「今はどうなんだ。誰かいるのか?」

「採用前に調べたんでしょう? シングルマザーに寄って来る男はいないわ。だって子供の父親にされそうで、皆及び腰だもの」


気軽に遊ぼうという男はたくさん寄って来る。だが、もうこりごりだ。男など2度と信用しない。

だが、聡が反応したのは〝子供の父親〟その台詞だった。


「君は、子供の父親が欲しいのか」

「……そうね。如月先生のご家庭を見てたら、この子にも普通の家庭を与えてやりたいって思う。悠のパパになってくれて、ちゃんと働いてくれる人なら文句は言わない。大きな鯉のぼりがなくても、子供は幸せになれるわ。私がそうだったもの」

「自分はどうなんだ? 子供の父親は君の夫だろう。尻の軽い自分の行いは反省したわけか?」


とことんムカつく聞き方だ。
だが、もう言い返す気にもならない。
夏海の尻が軽いなら、そんな女と簡単に関係した自分の無節操さは、どれくらい高い棚に上げてしまったのだろう?


「ええしっかり反省したわ! もう2度とあんな惨めな思いはしたくない!」

「そうか……」


聡はそれきり何も聞いては来なかった。

夏海も時折、悠の様子をうかがいながら、後はずっと窓の外を見つめていたのだった。


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