琥珀色の誘惑 ―日本編―
(3)冷酷な求婚
息が詰まる――というのはこういうことを言うんだろうな、と舞は思っていた。


なんと、リビングにミシュアル王子とふたりきりである。

王子が言い出したのだ「君の娘に話がある」と。


後ろに立っていたふたりはスッと廊下に出て、どうやら廊下にひとり、後は玄関の外に出たみたいだ。
噂に聞く“SP”って人たちらしい。


(本物だぁ~)


チラッと黒いスーツの襟がめくれ、拳銃みたいな物が見えた。

危険だし怖いしあり得ない状況だけど……あり得なさ過ぎて実感が湧かない。


舞は映画のワンシーンでも見ている気分だった。



それに、このミシュアル王子の格好良さは半端じゃない。

日本人っぽいとはいえ、彫りの深さはやはり日本人離れしている。

合成皮革の三人掛け用ソファに腰を下ろし、コーヒーを飲む姿すら威風堂々としていて、一枚の絵のようだ。



舞はついさっきのことを思い出していた。

彼女が『王子様ぁ!』と叫んだ時、娘の度重なる非礼に父は血相を変えて怒鳴りつけた。


『舞! 控えんか、無礼者がっ!』


そして、舞の頭を押さえ、お辞儀させようとしたのだ。


だが、その瞬間――ミシュアル王子は咳払いをして、射るような視線を父に向けた。
父は一瞬で舞の頭から手を退ける。


(なんかよく判んないけど、庇ってくれたの?)


この時は、クアルン王国の名前がピンと来ず……。

やっぱり王子様って違うのね、と脳天気に喜んでいた。


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