琥珀色の誘惑 ―日本編―
「えっとぉ……」


さすがに気詰まりで、日本語が通じるなら何か話してみようと試みる。


「さっきはありがとうございました」

「何の礼だ」

「父に叱られずに済みました」

「当然のことだ」

「そ、そうですか……」


(だめだ、話が続かない)


丸型のスツールに腰掛け、舞は早くも白旗を振っていた。

彼女に何の話があるのか判らないが、できるだけ早く済ませてお引取り願おう。


もし可能なら……サインというのは貰ってもいいものだろうか?


などとミーハーなことを考える。


だが、刺々しい物言いはともかく、ミシュアル王子はその声までもが魅力的だ。
低めのバリトンでエコーの掛かったような声色である。


(この声で「……舞」なんて言われたらどうしよう!)


などと、愚にも付かないことまで想像が羽ばたき始めた。
 

その時だ。


「舞……経験はないんだろうな?」


唐突に名前を呼ばれ、舞は驚きのあまり眩暈を覚えた。

当然、質問の内容など耳に入らない。


「は? あの、経験ですか? 経験……えっと何を、経験?」

「決まっている。オトコだ」

「えっと……お茶とお華は習いましたけど、お琴まではちょっと」

「誰がそんなことを聞いている。私が訊ねているのは男性経験のことだ」

「男性……けいけん?」

 
どきどき、わくわく、が一気に吹き飛んだ。


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