琥珀色の誘惑 ―日本編―
(7)奪われた唇
「降りろ」

「……え?」

「着いたから降りろと言っている」


鼻先五センチもない距離で言われ、舞は慌ててシートベルトを外して車外に転がり出た。

男性と身近に接したことなど全くない舞に、ミシュアル王子は激しすぎる。
予測不可能な言動の連発に今にも倒れそうだ。


「舞、隣は何だ?」

「はい? 公園ですけど」

「随分緑が豊富なのだな。入場ゲートは? 料金は何処で払うのだ?」

「掛かりませんよ。だって、区立の公園ですから」

「そうか。では、入ろう」


プリンスが公園で何をする気なんだろう?

不思議に思いつつ、舞はその後姿を見送った。


ところが――。


「舞! 何をしている。さっさと来ないかっ!」

「わ、わたしもですか?」 


なんと、公務員宿舎近くの路上にジャガーを放置したまま、王子は公園に向かってズンズン進んでいく。

車のキーは付けっ放しだ。
これでは盗んでくださいと言わんばかりである。

来いと言われても、心配で離れられない。

舞がそんなことを考えていると、黒塗りのベンツから人が降り、ジャガーに走り寄った。

舞に向かって何か呟くが、アラビア語のため良く判らない。
舞が両手を前で振ると、SPの男性はジャガーに乗り込み、すぐに走り去った。

その時、舞は初めてジャガーの用途を知った。

ミシュアル王子は舞を送るためだけに、車を用意してくれたのだ。


(どうして、こんなことをするの? 何でわたしなの?)


この降って湧いた結婚話を、王子は正直な所どう思っているのだろう?

舞はそれを確かめたくて、彼の後を追ったのだった。


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