琥珀色の誘惑 ―日本編―
公園は区立の割りに広いほうだと思う。

宿舎に近い場所に木立があり、反対側は広場になっている。

広場を半包囲するように桜の木が十本程植えてあった。先週末が見頃で、毎年、舞の誕生日を過ぎる時期には葉桜になってしまう。

公園は広場のほうに遊具が置いてあり、そちら側はいつも賑わっていた。

だが、木立のほうにはトイレと遊歩道くらいしかなく、人も少ない。


そのひと気のない木立の中央にミシュアル王子はいた。
ジッと木を見上げている。


彼の荘厳な佇まいに、不思議と大使館発行のパンフレットで見た民族衣装のイメージが重なった。

トクン、と心臓が高鳴り、そのままドキドキに移行する。

口を開けばとんちんかんなことを言い出すミシュアル王子だが……黙って立っていれば、非の打ち所がない。
舞が幼い頃に思い描いた、理想の王子様そのものだ。


「あの……殿下」

「アルだ」

「はあ。えっと、アル、さっきの車はわざわざ私を送るために調達してくれたんですか?」

「君は初対面であることを気にしていた。ふたりで会う時間が必要だと思ったのだ」


なぜジャガーなのか……その基準が今ひとつ判らないけれど、とりあえず高級車を借りてくれたことに感謝を伝えた。

しかし、それに対する王子の返答は、舞の想像を遥かに上回った。


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