琥珀色の誘惑 ―日本編―
舞は高校卒業まで、同年代の男子とまともに口を聞いたことがなかった。

舞の父がメチャクチャ厳しいのだ。

学校でも十二年間見事に担任は女性教師。
そもそも五十代以下の男性教師自体が学校にはいなかった。


そんな彼女が大学に入学したての頃、男の子から電話が掛かって来た。
元クラスメートの卒業名簿を見て、電話番号を聞いたという。

たまたま父が海外出張でいなかったこともあり、舞はその男の子と会う約束をしたのだ。

数日後、初めてのデートに舞は精一杯のおしゃれをして出掛けた。

だが、その場所には元クラスメートふたりも来ていて、彼女らはひとりの男の子の左右に立ち、薄ら笑いを浮かべていた。


その男の子は、いぶかしむ舞の顔を見るなり言ったのだ。


『何だよ。普通の女じゃねぇのかよ。初めに言っといてくれよな』


彼女らに向かってそんな悪態を吐き始める。

『引っ掛かったー』と彼女らは大笑い。


『馬鹿言ってんじゃねぇよ。俺よりデカイじゃん。ムリムリ、絶対にムリ』



ちょっとしたドッキリでしょ、本気にしてないよね、月瀬さんも判ってて来たんだよね、ウケ狙いでなきゃ“女装”して来ないよね~。



彼女らの言葉に舞は酷く傷つき、でも、泣かなかった。




「桃子、わたしもう帰るから。門限過ぎちゃったし」


八時を少し過ぎたばかりだが、なんと舞の門限は八時なのである。 


「ねぇ舞! なんかあった? 一緒に帰ろうか?」

「いいよ。桃子は楽しんできて。じゃ」


逃げるように、舞は初めて足を踏み入れた洋風居酒屋を後にしたのであった。


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