愛は満ちる月のように
彼女はそういった女性を守るために弁護士の道を選んだ。

悠自身、大学一年までは法律家を目指していた。そのため、ボストンで一緒に暮らしていたときは、日本の法律について知っている限りのことを教えたと思う。


「たしかに、シェルターの弁護士に高級なスーツは相応しくないだろうが……。とりあえず久しぶりの帰国なんだ。それなりの格好はして欲しかったかな。まるで僕が、生活費を渡してないみたいだからね」


自分でも酷く意地悪な言い方だと気づいた。

女との痴話げんかを見られた気まずさか。連絡もなしにやって来た苛立ちか。いや、そうじゃない、おそらく――。


「あら? 実際にいただいてないもの。違った?」


コーヒーカップを置くと、美月は澄ました顔で言い放つ。その目は挑戦的にキラキラと光っていた。 


「必要なら送るよ。夫の義務だ」

「じゃあ安心して、もうすぐ義務はなくなるから」


悠は息をつくと、コーヒーをひと口啜る。


「なるほど、次に義務を負う男は……その大きなジャケットに隠されたバストとヒップももらえる訳だ」
 

その瞬間、テーブルが揺れた。


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