愛は満ちる月のように
ちょうど七年前の四月、ビジネススクール留学一年目の終わりに、悠はボストン美術館で藤原美月に会った。

美月は悠の弟、真(まこと)の同級生だ。悠が実家にいた頃、何度か家に遊びに来たことがあった。当時の彼女はまだ小学生。大人びた美少女ではあったが、悠にとって“弟の片思いの相手”以外に思うことはなかった。

だが、美月は悠のことを覚えていたという。

彼女から声をかけられ、同国人、それも顔見知りの気安さから数回約束してお茶を飲む。それを目にした大学の友人たちは何かと冷やかしたが……。

いくら美月が小学生からステップアップしたとはいえ、ティーンエイジャーに変わりはない。ハイスクールに通う少女に対して、下心など一切なかった。


しかし、美月がふとした拍子に見せる影と、そして彼女の周囲で見かける不審な男たちに悠は気づいてしまう。


『真からファザコンだって聞いてたのに、ハイスクールから留学なんて。ひょっとしてお父さんの再婚相手と上手くいってないとか?』


悠にすれば冗談めかして尋ねたつもりだった。

しかし、美月は深刻な声でとんでもないことを口にしたのだ。


『いいえ、継母(はは)は優しいわ。弟も可愛いし……父も……家族が大切だから、ここに来たの。私がそばにいたら、皆の命に関わるから……』


それはただならぬ返事だった。


< 24 / 356 >

この作品をシェア

pagetop