愛は満ちる月のように
気遣ったつもりが、拒否に取られたようで、悠は慌てて付け足す。


『そうじゃない。日本から離れたこんな場所で偶然会えたのは奇跡のようなものだし……。僕の力になれることならなんでもしてあげたい。ただ……言葉にできないほど辛いこともある、と、僕も知ってる』


自分で言った言葉に悠の胸はズキンと痛んだ。

家族がらみの話題は、今の悠にはきつい。自分の話をせずに、美月のことだけ聞いていられるなら、そのほうが楽だった。

どうやら、美月はそんな悠の本心が、何度か言葉を交わしただけで察したらしい。昔話をしたのが最初に会ったときだけで、あとは一切尋ねないのがその証拠だろう。

ハイスクールを一学年スキップすることが決まっているというだけのことはあり、頭の回転はすこぶる速い。


そんな美月の口から出たのは……。


『私のせいで弟が誘拐されて……私と弟を助けようと、父が拳銃で撃たれたの……』


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