愛は満ちる月のように
広い道路から敷地内に入り、エントランスを抜ける。

フロントには管理人の男性がいて、「お帰りなさいませ」と声をかけられた。

マンションはL字型に建てられており、B棟の部分は十一階建て。悠の部屋はA棟で八階――最上階に位置する。

三LDK、ルーフバルコニー付き。男のひとり暮らしにはどう考えても広過ぎる。

立派な対面式キッチンが、その機能をフルに発揮したことはなく、四畳半の居間に至っては足を踏み入れたことすら数えるほど……。

当然だが、これまで一度も女性を連れ込んだことはなかった。


休日以外で昼間に家にいることも珍しい。

悠は仕事中毒という訳ではないが、家にひとりでいるのは苦手だった。おそらく、ひとり暮らしの経験がないせいだろう。

ボストンの一年目はルームシェアをして、二年目に経験する予定だったが……結局、美月と一緒だった。


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