愛は満ちる月のように
「ついさっきよ。そのままこっちに来たんだけど……お取り込み中みたいね」


昔とは違う口調だが、おそらく悠の置かれた状況を察して、咄嗟に合わせてくれたらしい。

その辺りの度胸の据わり具合は以前と同じだ。と思いつつ、それでも見た目の変化に戸惑い、悠は上手く言葉が出てこない。


「だ、誰よ。この女は誰? こんな、いきなりやってきて」


千絵が突然喚き始める。


「なんだかよくわからないけれど。一条の妻で美月(みつき)と言います。ひょっとして、あなたは主人の愛人さん? 訴えるとかどうとか……」


美月はにっこりと笑うと、手にしたバッグから名刺を取り出した。そこには『Boston girls shelter(ボストン・ガールズ・シェルター)』と大きく書かれ電話番号が記載されている。隅に『legal advisor Mitsuki Ichijyo(顧問弁護士 一条美月)』と彼女の名前もあった。


「ハーバードのロースクールを出て、ボストンで弁護士をしています。まずは、あなたのフルネームを教えていただける? 慰謝料を請求するなら、手続きに必要ですものね」


千絵は真っ赤になり、悠のオフィスから出て行った。


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