愛は満ちる月のように
「では改めまして。お久しぶりです。お元気そうで……ああ、取締役へのご昇進、おめでとうございます」


先ほどの女性の前では親しげな口調で話したが、悠は限りなく他人に近い家族だ。美月は気持ちを切り替え、丁寧に挨拶した。

それは悠にも伝わったらしい。

彼も姿勢を正して、


「どうもご丁寧に。こちらこそ、ご無沙汰しております。ご連絡いただけましたら、私のほうが東京まで行ったのですが」


同じような挨拶を返してきた。


悠の応対は美月の心に薄い傷を作った。自ら引いた線、同じ線を引かれることに、痛みを感じるなんて思ってもいなかった。


「……というのはこれくらいにして。さてと、美月ちゃんにはまずいとこを見られたな」


悠は口元に手を添え、困ったフリをしながら、本当は今にも笑い出しそうだ。


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