Debug
一歩
大学一期目の半分は、新しい生活になれることと、勉強で終わってしまった。
結局というか、やっぱりというか、桜の木の男の子こと氷田君にメールをすることはなかった。
後期の必修科目の日程をひゅかとあわせた。あとは学校に行くだけだ。
一つでもいいから、氷田君と同じ授業があったらな。
私の期待は、翌日現実のものとなった。
「みあ、王子だよ。やったじゃん、同じ授業だ」
後期最初の授業で、ひゅかが小声で私にささやいた。
ひゅかに言われるまでもなく、私は彼に気づいていた。
ひゅかがささやいたときには、私はその姿に釘付けになっていたから。
柔らかそうな髪に、人懐っこいように笑う彼。
彼の姿とともに、桜の花びらが脳裏によぎる。
「本当に……かっこいいな」
「でも、王子狙ってる子は多いからな」
私の呟きに、ひゅかが冷やかす。
確かに氷田君を見ていて気づいたけど、他の女の子も、氷田君を見ている。
だって、本当に格好良いから。
「まぁ、私彼女になりたいとか思ってるわけじゃないから……」
私は苦笑して言った。
これは本音。
氷田君と友達になって、仲良くなれればそれで十分だった。
それに高望みをしたって意味はないから。
「ふ~ん?」
「なによ」
ひゅかの意味ありげな笑いに、私は照れて言い返すしかできなかった。